宅建士合格教科書|2026年度(令和8年度)
第 9 章|例年 1〜2 問出題

民法の基礎 — 制限行為能力者と意思表示

権利関係の入口。「誰を守り、誰を犠牲にするか」の視点で民法を読む

この章で学ぶこと

例年 1〜2 問出題。ここで身につける「原則→例外→第三者」の思考は権利関係 14 問すべての土台になるため、確実に 1 問確保が目標です。

民法の読み方 — A・B・C と「誰を守るか」

権利関係 14 問のうち約 10 問は民法から出ます。民法は暗記科目ではなく、「原則を示し、かわいそうな人がいれば例外で救う」という設計思想でできた法律です。本試験で問われるのはほぼ例外の方なので、各制度で「誰を守り、その代わりに誰が泣くのか」を意識すると、初見の肢でも正解を選べるようになります。

もう一つの鉄則が作図です。問題文を読んだら、左に A(売主・本人)、右に B(買主・相手方)、外側に C(第三者)を置いた図を必ず描きます。本書の解説もすべてこの配置で統一します。

A(売主・本人) B(買主・相手方) C(第三者) 売買契約 転売など 契約の当事者 契約の外の利害関係人 問題文を読んだら、まずこの形に図を描いてから解く
図 9-1 本章の全論点はこの配置で読む。当事者 A・B 間の結論と、C が現れたときの結論が別々に問われるのが民法の出題パターンです。

あわせて、問題文に頻出する用語を日常語に読み替えられるようにしておきます。

試験用語読み替え
善意その事情を知らない
悪意その事情を知っている(悪気の有無は無関係)
善意無過失知らないことに落ち度もない
善意有過失知らないが、注意すれば気づけた
対抗する「自分の権利だ」と主張して通す
追認問題のある行為を後から「それで OK」と認める

暗記テク 迷ったら 2 原則で切る——①いちばん気の毒な人を守る、②悪いやつ(知っていた人・だました人)は守らない。民法の例外規定はほぼこの 2 原則から逆算できます。

契約の成立と「有効・無効・取消し」

契約は申込みと承諾の意思表示が合致した時に成立します(民法522条)。原則として書面の作成も物の引渡しも不要で、口約束だけで成立します(諾成契約)。「契約書を作成しなければ売買契約は成立しない」という肢はバツです。

成立した契約が効力を持たない場合の言葉づかいを最初に固めます。無効は、はじめから当然に効力がないこと。取消しは、いったん有効に成立した行為を、取消権者の意思表示によって契約の時に遡って無効にすることです(民法121条)。取り消されるまでは有効、という点が最大のポイントです。

【無効】はじめから効力なし 契約 ずっと効力なし——追認しても遡って有効にはならない 【取消し】取消しか追認かの二者択一 取り消されるまでは有効 契約 取消し or 追認 追認 → 以後有効に確定 もう取り消せない 取消し → 契約の時に遡って無効 取り消した後はもう追認できない 取消しと追認は同じ分岐点での二者択一——先に取り消せば確定的に無効
図 9-2 「取消しの時から将来に向かって無効になる」と書かれた肢はバツ。遡及効(遡って無効)が正しい結論です。取消しと追認は同じ分岐点での二者択一で、一度取り消すと確定的に無効になり、後から追認して有効にすることはできません。
比較項目無効取消し
効力はじめから効力なし取り消されるまでは有効。取り消すと遡って無効
主張できる者原則、誰でも主張できる取消権者のみ——制限行為能力者本人・その代理人・承継人・同意権者(民法120条1項)/錯誤・詐欺・強迫の表意者・その代理人・承継人(120条2項。同意権者は入らない)
期間の制限原則なし追認できる時から 5 年、行為の時から 20 年で消滅(民法126条)
追認追認しても遡って有効にはならない(無効と知ってした追認は新たな行為をしたものとみなす。民法119条)追認すると有効に確定し、以後取り消せない
代表例意思無能力・公序良俗違反・虚偽表示制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫

無効となる代表例を 2 つ押さえます。第一に意思無能力。泥酔者や重度の認知症の人のように、意思表示の時に判断能力(意思能力)を欠いていた場合、その法律行為は無効です(民法3条の2)。「取り消せば無効になる」のではなく、はじめから無効という点がひっかけどころです。第二に公序良俗違反(民法90条)。犯罪の報酬契約のような社会の秩序に反する行為は無効で、こちらは善意の第三者にも無効を主張できる絶対的な無効です。

取り消した後の清算も出題されます。取り消された行為の当事者は原則として原状回復義務(受け取ったものを全部返す義務)を負いますが、意思無能力者と制限行為能力者は「現に利益を受けている限度」(現存利益)で返せば足ります(民法121条の2)。受け取った代金を遊興費に浪費した分は返さなくてよく、生活費や借金の返済に充てた分は(その分の支出を免れているので)現存利益ありとして返す必要がある、という区別まで覚えておきましょう。

制限行為能力者 — 4 類型と保護者の権限

判断能力が不十分な人が不利な契約で財産を失わないよう、民法は 4 つの類型を定め、単独でした一定の行為を取り消せることにしました。これが制限行為能力者制度です。定型的な類型に当てはめて画一的に保護する(取引の相手方も類型を確認すれば予測がつく)のがこの制度の狙いで、個別の判断能力の有無を問う意思無能力(無効)とは別ルートの保護です。

類型本人の状態保護者同意が必要な行為単独でできる(取り消せない)行為
未成年者18 歳未満法定代理人(親権者・未成年後見人)原則すべての法律行為①単に権利を得、または義務を免れる行為 ②処分を許された財産(小遣い)の処分 ③許可された営業に関する行為
成年被後見人事理弁識能力を欠く常況+後見開始の審判成年後見人同意制度なし(同意を得た行為でも取消し可)日用品の購入その他日常生活に関する行為
被保佐人事理弁識能力が著しく不十分+保佐開始の審判保佐人民法13条1項の重要な行為(借財・保証、不動産の権利の得喪、新築・改築・増築・大修繕、長期賃貸借など)重要な行為以外+日常生活に関する行為
被補助人事理弁識能力が不十分+補助開始の審判補助人審判で定めた特定の行為(13条1項の行為の一部)のみそれ以外のすべて

未成年者 — 例外 3 つを正確に

未成年者が法定代理人の同意なしにした契約は取り消せます。試験で狙われるのは取り消せない例外 3 つです。①単に権利を得、または義務を免れる行為(負担のない贈与を受けるなど。負担付贈与は義務を伴うので該当しません)、②処分を許された財産の処分、③許可された営業に関する行為(許可された営業の範囲内では成年者と同一の行為能力。すべての取引で大人扱いになるわけではありません)。

成年被後見人 — 同意があっても取り消せる

成年被後見人は判断能力を欠く常況にあるため、成年後見人の事前の同意を得てした行為でも取り消せます。同意どおりに行動できる保証がないからです。同意があれば取り消せない被保佐人・被補助人との対比が最頻出です。ただし日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消せません(民法9条ただし書。この例外は被保佐人・被補助人にも共通です)。

もう 1 つの頻出論点が居住用不動産の処分です。成年後見人が本人に代わって、本人の居住の用に供する建物・敷地を売却・賃貸・賃貸借の解除・抵当権の設定をするには家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。住み慣れた家を失うと本人の心身に重大な影響があるからで、裏を返せば倉庫など非居住用の財産の処分に許可は不要です。

被保佐人・被補助人

被保佐人は、借財・保証、不動産その他重要な財産の権利の得喪、新築・改築・増築・大修繕、長期の賃貸借(土地 5 年・建物 3 年を超えるもの)といった重要な財産行為(民法13条1項)に限って保佐人の同意が必要です。被補助人はさらに軽く、審判で個別に定めた特定の行為(13条1項の行為の一部に限る)だけが同意の対象になります。なお、本人以外の請求で補助開始の審判をするには本人の同意が必要です(保護の必要が最も小さい類型なので、本人の意思を尊重します)。

保護者同意権代理権追認権取消権
法定代理人(未成年者)○○○○
成年後見人×(同意しても取り消せるため)○(居住用不動産の処分は家裁の許可)○○
保佐人○(13条1項の行為)△(審判で付与された特定の行為のみ)○(同意権の範囲内)○(同意権の範囲内)
補助人△(審判で定めた行為のみ)△(審判で付与された特定の行為のみ)○(同意権の範囲内)○(同意権の範囲内)

この表で見落としやすいのが、保佐人・補助人の追認権・取消権は同意権のある行為に限られる点です。同意が要らない行為は被保佐人・被補助人が単独で有効にでき、そもそも取消しの対象になりません。「補助人は被補助人が単独でした行為をすべて取り消せる」という肢はバツです。

最後に第三者との関係です。制限行為能力を理由とする取消しには第三者保護規定がなく、善意無過失の第三者に対しても取消しを対抗できます。判断能力が不十分な本人の保護を、取引の安全よりも徹底して優先した制度だからです。後述の錯誤・詐欺(善意無過失の第三者に対抗不可)との違いとして覚えておきましょう。

相手方の保護 — 催告権と詐術

取り消されるかどうか分からない相手方は不安定な立場に置かれます。そこで民法は相手方に 2 つの武器を与えました。

第一が催告権(民法20条)です。相手方は1 か月以上の期間を定めて「追認するかどうか答えてください」と催告でき、確答がないときは次のとおり効果が確定します。ポイントは「単独で追認できる者に催告して返事がなければ追認、単独で追認できない者なら取消し」という整理です。

催告の相手 確答がないときの効果 行為能力者となった本人 法定代理人・保佐人・補助人 追認とみなす 単独で追認可 被保佐人・被補助人(本人) 取消しとみなす 単独で追認不可 未成年者・成年被後見人(本人) 催告の効力なし 催告を受け取る力なし 「単独で追認できる相手→追認」「できない相手→取消し」とみなす
図 9-3 催告は 1 か月以上の期間を定めて行う。被保佐人・被補助人本人への催告(保佐人等の追認を得るべき旨の催告)で、期間内に追認を得た旨の通知がなければ「取り消したものとみなす」——ここが最頻出です。

第二が詐術による取消権の否定(民法21条)です。制限行為能力者が「自分は行為能力者だ」と信じさせるため詐術を用いたときは、もはや取り消せません。嘘までついてだました者は保護に値しないからで、未成年者に限らず 4 類型すべてに共通のルールです。判例は、単に制限行為能力者であることを黙っていただけでは詐術に当たらないが、黙秘が他の言動と相まって相手方の誤信を招き、または誤信を強めたときは詐術に当たるとしています。

意思表示 — 5 つの類型と第三者保護

次は、行為能力はあるものの意思表示の中身に問題がある場合です。先に結論を一覧すると、5 類型の効果は「心裡留保=原則有効」「虚偽表示=無効」「錯誤・詐欺・強迫=取消し可」。そして本試験で差がつくのは第三者 C が現れたときの勝敗です。順に見ていきます。

心裡留保(民法93条)— 冗談も原則有効

売る気もないのに「売ってあげる」と言う——真意でないと自分で分かっていてする意思表示が心裡留保です。効果は原則有効。冗談を言った本人より、信じた相手方を守るべきだからです。例外として、相手方が真意でないことを知り、または知ることができたとき(悪意・有過失)は無効になります。この無効は善意の第三者に対抗できません。

虚偽表示(民法94条)— 通謀のウソは無効、しかし善意の C には勝てない

A が債権者の差押えを逃れるため、B と示し合わせて売ったことにして登記だけ B に移す——これが(通謀)虚偽表示で、AB 間では無効です。問題文に「差押えを免れるため」「B と通じて仮装譲渡」とあれば虚偽表示の問題だと判定してください。そして本試験の核心は、B が事情を知らない C に転売した場面です。虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗できません(民法94条2項)。ウソの外観を自ら作り出した A に責任があるからです(権利外観法理)。

A(売主) 仮装譲渡の本人 B(買主) 通謀の相手 C(第三者) 善意で保護 仮装売買 (通謀) 転売 無効の主張は認められない(94条2項) Cの善意は転売(取引)の時点で判定。無過失や登記は不要
図 9-4 C は善意でありさえすれば勝つ。無過失は不要、登記を備えている必要もない——「善意かつ無過失でなければ」「登記がなければ」と絞る肢はバツです。

C からさらに買い受けた転得者が登場しても考え方は同じで、取得の連鎖のどこかに善意者が 1 人でも現れれば、その時点で権利関係は確定し、以後の転得者が悪意でも A は無効を主張できません(絶対的構成)。

A(本人) B(買主) C(善意) D(悪意) 仮装売買 転売 転売 無効を主張したい 善意者が出た時点で決着 悪意でも保護 Aはもう誰にも無効を主張できない(絶対的構成)
図 9-5 「最終取得者 D が悪意だから A は取り戻せる」はバツ。1 度でも善意者を経由すれば以後は確定します。

94条2項の「第三者」に当たるかどうかも判定問題として出ます。基準は仮装の目的物について、新たに独立の法律上の利害関係を持ったかです。

第三者に当たる(善意なら保護)第三者に当たらない(保護されない)
仮装譲受人 B からの譲受人・転得者B の単なる一般債権者(差押えをしていない)
仮装の目的物に抵当権の設定を受けた者仮装譲渡された土地の上に B が建てた建物の賃借人(土地自体に利害関係なし)
仮装の目的物を差し押さえた B の債権者B の代理人や相続人(承継人は当事者の地位を引き継ぐ)

錯誤(民法95条)— 勘違いは 3 つの関門を通れば取消し

言い間違い・勘違いによる意思表示が錯誤です。錯誤には、1,000 万円と書くつもりで 100 万円と書いたような表示の錯誤(意思表示に対応する意思を欠く錯誤)と、「駅ができるはずだ」と信じて買ったような動機(基礎事情)の錯誤の 2 種類があります。取り消せるかどうかは次のチャートで判定します。

勘違い(錯誤)で意思表示をした 社会通念に照らして重要な錯誤か? 重要でない → 取消し不可 重要な錯誤 動機(基礎事情)の錯誤なら、 その事情が表示されていたか? 動機の錯誤で表示なし → 取消し不可 表示あり/そもそも表示の錯誤 表意者に重大な過失があるか? 重過失あり → 原則取消し不可 例外: 相手方が悪意・重過失 or 共通錯誤なら取消し可 重過失なし 取消しできる (ただし善意無過失の第三者には対抗不可)
図 9-6 錯誤の判定チャート。動機の錯誤は「基礎事情としていることが表示されていた」場合に限り取消しの対象になり、重過失があれば原則取り消せません(例外 2 つに注意)。

チャートの各関門を整理します。①錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要であること。②動機の錯誤は、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたこと(黙って心の中で期待していただけでは取り消せません)。③表意者に重大な過失があれば原則取消し不可。ただし、相手方が錯誤を知り、または重大な過失によって知らなかったとき、および相手方も同一の錯誤に陥っていた(共通錯誤)ときは、重過失があっても取り消せます。どちらも相手方に保護すべき信頼がない——錯誤に気づいていたか、自分も同じ勘違いをしていた——からです。そして錯誤による取消しは善意でかつ過失がない第三者に対抗できません。

詐欺・強迫(民法96条)— 第三者への結論が正反対

だまされてした意思表示(詐欺)も、脅されてした意思表示(強迫)も取り消せます。差がつくのは第三者 C が現れた場面で、ここが本章最大の対比です。

【詐欺】Bにだまされて売った場合 A(本人) B(相手方) C(善意無過失) 売買 転売 Aは取消しを 対抗できない 【強迫】Bに脅されて売った場合 A(本人) B(相手方) C(善意無過失) 売買 転売 Aは常に取消しを 対抗できる 脅された人に落ち度はない——強迫だけ第三者保護規定がない
図 9-7 詐欺の被害者は「だまされた落ち度」があるため善意無過失の C に負けるが、強迫の被害者は落ち度ゼロなので常に勝つ。結論が正反対になる最重要対比です。

もう 1 つ、契約の当事者以外の者がだました・脅した場合(第三者詐欺・第三者強迫)も対比で覚えます。第三者 D の詐欺で A が B に売った場合、A が取り消せるのは相手方 B がその事実を知り、または知ることができたとき(悪意・有過失)に限られます。何も知らない B を犠牲にできないからです。これに対し第三者の強迫では、B が善意無過失でも A は取り消せます。強迫の被害者保護は徹底しています。

類型当事者間の効果第三者 C との関係ワンポイント
心裡留保原則有効(相手方が悪意・有過失なら無効)無効は善意の C に対抗不可冗談でも原則有効
虚偽表示無効善意の C に対抗不可(無過失・登記不要)通謀が要件。転得者は絶対的構成
錯誤重要な錯誤なら取消し可善意無過失の C に対抗不可動機は表示が必要。重過失なら原則不可
詐欺取消し可善意無過失の C に対抗不可第三者詐欺は相手方が悪意・有過失のときのみ取消し可
強迫取消し可C が善意無過失でも常に対抗できる第三者強迫は相手方が善意でも取消し可
公序良俗違反無効善意の C にも無効を主張できる(絶対的無効)社会秩序そのものを守る規定

暗記テク 第三者保護の要件は「落ち度の差」で決まる——ウソの外観を作った虚偽表示・冗談の心裡留保は善意だけで C の勝ち、勘違い・だまされた人には少し同情できるので C には善意+無過失まで要求、脅された人は落ち度ゼロだから本人が常に勝つ。

最後に接続論点をひとつ。ここまでの「C に対抗できるか」は、いずれも取消し・無効の前に利害関係に入った C の話です。A が取り消した後に B から買った C との優劣は、意思表示の規定ではなく対抗関係(民法177条・登記の先後)で決まります。この「取消し前後の第三者」は第11章(物権変動と不動産登記法)で詳しく扱います。

ひっかけポイント

ここがひっかけ① 「成年被後見人が成年後見人の同意を得てした行為は取り消せない」——バツ。成年被後見人だけは事前の同意があっても取り消せます(同意どおり行動できる保証がないため)。同意があれば取り消せない被保佐人・被補助人とすり替えて出題されます。

ここがひっかけ② 「取消しの時から将来に向かって無効となる」——バツ。取消しは契約の時に遡って無効です。また、泥酔者など意思無能力者の行為は「取り消せる」のではなくはじめから無効。無効と取消しの用語のすり替えに注意してください。

ここがひっかけ③ 第三者保護要件の入れ替え。「虚偽表示の無効は善意無過失の第三者に対抗できない」——無過失は不要(善意で足りる・登記も不要)なので、要件を厳しくしたこの肢は誤りを含みます。逆に錯誤・詐欺で「善意の第三者に対抗できない」とだけ書いて無過失を落とす肢もあります。心裡留保・虚偽表示=善意、錯誤・詐欺=善意無過失、強迫=保護規定なしを機械的に照合しましょう。

ここがひっかけ④ 「未成年者であることを理由とする取消しは、善意無過失の第三者に対抗できない」——バツ。制限行為能力を理由とする取消しには第三者保護規定がなく、善意無過失の第三者にも対抗できます。意思表示の規定(94条2項・95条4項・96条3項)と混ぜたひっかけです。

一問一答で総仕上げ

Q1. 未成年者Aが法定代理人の同意を得ずに自己所有の土地をBに売却した場合、Aは成年に達する前であっても、単独でこの契約を取り消すことができる。(○か×か)

答え: ○ 制限行為能力者本人も取消権者であり(民法120条)、取消しの意思表示は単独で有効にできます。取消しに法定代理人の同意は不要です。

Q2. 成年被後見人Aが、成年後見人Bの事前の同意を得て自己所有の宅地を売却した場合、Bはこの売買契約を取り消すことができない。(○か×か)

答え: × 成年被後見人は事前の同意を得た行為でも取り消せます(日用品の購入その他日常生活に関する行為を除く)。同意どおりに行為できる保証がないためで、被保佐人・被補助人との最重要対比です。

Q3. 成年後見人が、成年被後見人の居住の用に供する建物を売却するには家庭裁判所の許可が必要だが、居住の用に供していない倉庫を売却する場合には許可は不要である。(○か×か)

答え: ○ 家庭裁判所の許可が必要なのは居住用不動産の処分(売却・賃貸・賃貸借の解除・抵当権の設定等)に限られます(民法859条の3)。非居住用財産の処分に許可は不要です。

Q4. 被保佐人が保佐人の同意を得ずに日用品を購入した場合、保佐人はこれを取り消すことができる。(○か×か)

答え: × 保佐人の同意が必要なのは民法13条1項の重要な財産行為に限られ、日用品の購入その他日常生活に関する行為は同意不要で、取り消すこともできません。

Q5. 被保佐人Aが、相手方Bに対し「自分は行為能力者であり保佐開始の審判を受けていない」と偽って土地を売却した場合でも、保佐人はこの契約を取り消すことができる。(○か×か)

答え: × 行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いた制限行為能力者の行為は取り消せません(民法21条)。本人だけでなく保佐人など他の取消権者も取り消せなくなります。

Q6. 被保佐人Bと契約した相手方Aが、B本人に対し1か月以上の期間を定めて保佐人の追認を得るべき旨を催告したが、期間内にBが追認を得た旨の通知を発しなかった場合、契約は追認されたものとみなされる。(○か×か)

答え: × 被保佐人・被補助人本人への催告で期間内に追認を得た旨の通知がないときは、取り消したものとみなされます(民法20条4項)。追認とみなされるのは、単独で追認できる者(行為能力者となった本人や保佐人など)に催告した場合です。

Q7. AがBと通謀して自己所有の土地をBに仮装譲渡し、Bがその土地を事情を知らないCに転売した場合、Cがまだ所有権移転登記を備えていなければ、AはCに対して売買の無効を対抗できる。(○か×か)

答え: × 虚偽表示の無効は善意の第三者に対抗できず(民法94条2項)、Cは善意でありさえすれば保護されます。無過失も登記も不要です。

Q8. AB間の仮装譲渡の目的物である土地を、Bから善意のCが買い受け、さらにCから事情を知っているDが買い受けた場合、AはDに対して無効を主張して土地の返還を請求できる。(○か×か)

答え: × 取得の連鎖の中に善意の第三者Cが現れた時点で権利関係は確定し、その後の転得者Dが悪意でもAは無効を主張できません(絶対的構成)。

Q9. Aは、駅が新設されるとの計画がないにもかかわらずあると誤信して、Bから土地を購入した。Aがその動機をBに表示していなかった場合でも、錯誤が重要なものであれば、Aは売買契約を取り消すことができる。(○か×か)

答え: × 動機(基礎事情)の錯誤による取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り認められます(民法95条2項)。表示していなければ、錯誤が重要でも取り消せません。

Q10. 錯誤が表意者Aの重大な過失によるものであった場合でも、相手方BがAに錯誤があることを知っていたときは、Aは意思表示を取り消すことができる。(○か×か)

答え: ○ 重過失があると原則取り消せませんが、①相手方が錯誤を知り、または重大な過失によって知らなかったとき、②相手方も同一の錯誤に陥っていたとき(共通錯誤)は、例外として取り消せます(民法95条3項)。

Q11. AはBの詐欺によって自己所有の土地をBに売却し、Bはこの土地を、詐欺の事実について善意無過失のCに転売した。その後、Aが詐欺を理由に売買契約を取り消した場合、AはCに対して土地の返還を請求できる。(○か×か)

答え: × 詐欺による取消しは、取消し前に利害関係に入った善意無過失の第三者に対抗できません(民法96条3項)。だまされたAにも一定の落ち度があるため、無関係のCが優先されます。

Q12. AはBの強迫によって自己所有の土地をBに売却し、Bはこの土地を、強迫の事実について善意無過失のCに転売した。その後、Aが強迫を理由に売買契約を取り消した場合、AはCに対して土地の返還を請求できる。(○か×か)

答え: ○ 強迫による取消しには第三者保護規定がなく、善意無過失の第三者に対しても対抗できます。落ち度のない強迫の被害者を徹底的に守る趣旨で、詐欺(Q11)と結論が逆になります。

まとめ

論点急所条文
意思無能力はじめから無効(取消しではない)。返還は現存利益の限度民法3条の2・121条の2
取消権の期間追認できる時から 5 年・行為の時から 20 年民法126条
成年被後見人事前同意があっても取消し可。日用品購入等は取消し不可民法9条
居住用不動産の処分成年後見人でも家庭裁判所の許可が必要(非居住用は不要)民法859条の3
催告(確答なし)単独追認できる者→追認とみなす/被保佐人・被補助人本人→取消しとみなす民法20条
詐術取消権を失う。単なる黙秘のみでは詐術に当たらない民法21条
心裡留保原則有効。相手方が悪意・有過失なら無効(善意の第三者に対抗不可)民法93条
虚偽表示無効。善意の第三者に対抗不可(無過失・登記不要、転得者は絶対的構成)民法94条
錯誤重要な錯誤で取消し可。動機は表示が必要・重過失は原則不可。善意無過失の第三者に対抗不可民法95条
詐欺・強迫取消し可。詐欺は善意無過失の第三者に対抗不可、強迫は常に対抗可民法96条
制限行為能力の取消し第三者保護規定なし——善意無過失の第三者にも対抗できる民法5条・9条・13条・17条

本章では「本人がした意思表示」に問題がある場面を扱いました。次章では、意思表示を他人に任せる代理と、時の経過が権利を生み出し消滅させる時効——三面関係と時間軸という、権利関係の 2 大フレームワークに進みます。